- 1 メタディスクリプション
- 2 本文
- 2.1 はじめに――薬が効く仕組みの誤解をほどく
- 2.2 DDSとは何か――薬物送達と体内動態の考え方
- 2.3 なぜDDSが必要なのか――吸収、分解、代謝、排泄の壁
- 2.4 DDSの基本設計――3つの軸
- 2.5 代表的なDDSの種類を図解するように言語化する
- 2.6 抗がん剤とDDS――ナノ粒子のサイズと血管の違い
- 2.7 最新動向をわかりやすく――LNP、ADC、スマートドラッグ
- 2.8 美容とDDSの関係――誤解を正す
- 2.9 安全性と課題――免疫反応、蓄積性、コスト
- 2.10 よくある誤解――DDSなら副作用が出ない、ナノなら何でも浸透する
- 2.11 まとめ――DDSは万能ではないが、医療と美容の両方で重要な基盤技術
- 2.12 よくある質問
- 2.13 文中に出てきた用語集
メタディスクリプション
DDS(ドラッグデリバリーシステム)は薬物を標的に届ける技術。抗がん剤のナノ粒子、mRNAワクチンのLNP、経皮吸収まで仕組みを解説。化粧品の浸透との違い、EPR効果、副作用軽減の現実を美容専門家が整理。誤解を避ける知識を提供。
本文
はじめに――薬が効く仕組みの誤解をほどく
薬を飲んだとき、その成分が患部にどれだけ届いているか、考えたことはありますか。実は、経口で摂取した薬の有効成分がそのまま患部に届く割合は、薬の種類や体質によって大きく変わります。吸収の過程で消化酵素に分解されたり、肝臓で代謝されて別の物質に変わったり、必要のない部位に作用して副作用を引き起こしたりすることもあります。
こうした問題を改善する技術が、DDS(ドラッグデリバリーシステム、薬物送達システム)です。DDSは、薬の投与部位から作用発現部位に至るまでの体内動態を一つのシステムとして捉え、コントロールすることで、薬の効用を最大限に高める一方、投与量や副作用を減らす可能性を持つ技術です。
美容や健康の悩みにも、DDSは関係しています。化粧品の「浸透」という言葉、美容医療での成分導入、そしてmRNAワクチンで話題になった脂質ナノ粒子(LNP)まで、すべてドラッグデリバリーの考え方が関わっています。ただし、医薬品のDDSと化粧品の成分デリバリーは、到達範囲も規制も別物です。この違いを理解しないと、誤解や過度な期待につながります。
この記事では、DDSとは何か、なぜ必要か、どうやって効かせたい場所へ届けるのか、代表例、種類、安全性、課題、化粧品や美容医療との関係、よくある誤解まで、美容の現場視点も交えて丁寧に整理します。
DDSとは何か――薬物送達と体内動態の考え方
DDSとは、Drug Delivery System(ドラッグデリバリーシステム)の略で、日本語では薬物送達システムと呼ばれます。定義としては、薬の投与部位から作用発現部位に至るまで、薬物の体内動態を一つのシステムとして捉え、制御する技術です。
体内動態とは、薬が体内でどう吸収され、分布し、代謝され、排泄されるかのプロセス全体を指します。薬を飲んだり注射したりすると、薬は血液に乗って全身を巡りますが、すべてが患部に届くわけではありません。一部は肝臓で分解され、一部は腎臓から排泄され、一部は必要のない組織に作用してしまいます。
DDSの目標は、「必要な薬物を、必要な時間、必要な場所に届ける」ことです。これにより、薬の効用を最大限に高め、投与量や投与回数を減らし、副作用を軽減し、患者の負担を減らすことが期待されます。
DDSは、再生医療や難治性疾患の治療にも活路を開くものとして、大きな期待が寄せられています。ただし、DDSは万能ではなく、技術的な課題や安全性の問題も残っています。誇張せず、現実的に理解することが大切です。
なぜDDSが必要なのか――吸収、分解、代謝、排泄の壁
薬を飲んだとき、患部に届くまでにいくつもの壁があります。
まず、吸収の壁です。経口薬は、胃や腸で吸収される必要があります。しかし、胃酸や消化酵素によって分解されてしまう成分もあります。吸収されにくい成分は、そのまま排泄されることもあります。
次に、代謝の壁です。吸収された薬は、血液に乗って全身を巡りますが、肝臓で代謝されて別の物質に変わることがあります。これを初回通過効果といいます。肝臓での代謝が激しい薬は、患部に届く前に効力を失ってしまいます。
さらに、分布の壁です。薬は血液に乗って全身を巡りますが、すべての組織に均等に届くわけではありません。血液脳関門(BBB)のように、特定の組織への侵入を制限するバリアも存在します。患部に届く薬の量が少なければ、効果は限定的です。
そして、排泄の壁です。薬は腎臓から尿として排泄されるため、血中濃度は時間とともに低下します。効果を持続させるには、繰り返し投与する必要がありますが、これは患者の負担になります。
副作用が起きる理由も、体内動態と関係しています。薬が患部以外の組織に作用すると、本来は必要のない反応が起きます。たとえば、抗がん剤は癌細胞だけでなく、分裂が盛んな正常細胞(毛根、消化管粘膜、骨髄など)にも作用するため、脱毛、吐き気、免疫低下といった副作用が起きます。
DDSは、これらの壁を乗り越える、または回避する発想で設計されます。患部にだけ届ける、徐々に放出する、分解から守る。こうした工夫により、薬の効用を高め、副作用を減らす可能性が生まれます。
DDSの基本設計――3つの軸
DDSの設計には、大きく3つの軸があります。
1つ目は、どこへ届けるか(標的化、ターゲティング)です。薬を患部にだけ届けることで、副作用を減らし、効果を高めます。標的化には、パッシブターゲティングとアクティブターゲティングの2つのアプローチがあります。
パッシブターゲティングは、薬物を運ぶナノ粒子のサイズや物理化学的性質を利用して、自然に患部へ届ける方法です。代表例は、癌組織への蓄積を狙ったEPR効果(後述)です。
アクティブターゲティングは、薬物を運ぶキャリアに、特定の細胞を認識する仕組み(抗体、リガンド、糖鎖など)を付け加える方法です。患部の細胞表面にある受容体に結合することで、選択的に薬を届けます。
2つ目は、いつ出すか(放出制御、徐放)です。薬をゆっくり放出することで、血中濃度を安定させ、投与回数を減らします。放出のタイミングを制御するトリガーとして、pH(酸性度)、温度、酵素、光、磁場などが使われることもあります。
3つ目は、どれだけ守るか(安定化、分解から守る)です。薬を保護することで、消化酵素や血液中の酵素による分解を防ぎます。リポソームや高分子ミセルといったキャリアが、この役割を果たします。
この3つの軸を組み合わせることで、患部に届く薬の量を増やし、副作用を減らし、効果を持続させる設計が可能になります。
代表的なDDSの種類を図解するように言語化する
DDSには、さまざまな種類があります。運搬に使われる材料や形態によって、特性が変わります。
リポソームは、脂質二重膜で作られた球状のカプセルです。水溶性の薬は内側に、脂溶性の薬は膜に封入できます。リポソームは生体適合性が高く、副作用を減らしやすいため、抗がん剤や遺伝子治療に使われています。
高分子ミセルは、親水性と疎水性の両方を持つ高分子が集まってできる球状の集合体です。内側の疎水性部分に薬を封入できます。サイズが数十ナノメートルと小さく、血中滞留時間が長いため、癌組織への蓄積が期待されます。
脂質ナノ粒子(LNP)は、mRNAワクチンで広く知られるようになりました。脂質でできたナノ粒子が、mRNAを包み込んで細胞内へ届けます。mRNAは非常に不安定な分子ですが、LNPが保護することで、分解を防ぎ、効率よく細胞に取り込まれます。
抗体薬物複合体(ADC)は、抗体に薬を結合させたものです。抗体が癌細胞表面の受容体を認識して結合し、薬を癌細胞内へ届けます。アクティブターゲティングの代表例です。
ナノ粒子は、金属、高分子、脂質など、さまざまな材料で作られます。サイズは数十から数百ナノメートルで、血管の隙間を通り抜けやすい大きさに設計されます。
ゲルは、水を含んだ高分子のネットワーク構造です。局所投与(皮膚、粘膜など)に使われ、徐々に薬を放出します。
経皮吸収型パッチは、皮膚に貼ることで、薬を皮膚から吸収させる製剤です。ニコチンパッチや鎮痛薬のパッチが知られています。
点眼薬や吸入薬も、DDSの一種です。薬を必要な場所に直接届けることで、全身投与に比べて副作用を減らせます。
抗がん剤とDDS――ナノ粒子のサイズと血管の違い
DDSが注目される理由のひとつが、抗がん剤の副作用軽減です。抗がん剤は、癌細胞だけでなく正常細胞にも作用するため、強い副作用が起きます。DDSを使うことで、癌細胞にだけ薬を届ける可能性があります。
ここで重要なのが、ナノ粒子のサイズと血管の構造の違いです。正常な血管は、内皮細胞という細胞で作られており、隣り合う内皮細胞の間には、栄養や酵素が行き来できるように小さな隙間があります。この隙間は、数ナノメートル程度です。
抗がん剤だけだと、この隙間を通過できてしまうため、正常な細胞にも抗がん剤が入り、副作用が出ます。しかし、抗がん剤をナノ粒子で包むと、全体のサイズが大きくなるため、正常な血管の隙間を通り抜けることはできません。その結果、正常な細胞には抗がん剤は届かず、副作用を減らせる可能性があります。
一方、癌細胞の周囲の血管は、この隙間が大きく開いているという特徴があります。癌組織は急速に成長するため、血管が未熟で、内皮細胞の隙間が数百ナノメートルに及ぶこともあります。ナノ粒子は、この隙間から漏れ出して、癌組織に蓄積します。
さらに、癌組織はリンパ管も未発達なため、一度蓄積したナノ粒子は排出されにくく、長く留まります。この現象を、EPR効果(Enhanced Permeability and Retention effect、血管透過性亢進・滞留効果)といいます。
ただし、EPR効果には注意点があります。動物実験では明確に示されても、ヒトでは個人差や腫瘍の種類によって効果が大きく変わることが分かってきました。すべての癌にEPR効果が期待できるわけではなく、一部の患者では効果が限定的です。
また、ナノ粒子が癌細胞に入り込んだ後、薬を放出する仕組みも重要です。癌細胞と正常細胞ではpH(水素イオン指数)が異なり、癌細胞は酸性が強い傾向があります。この特性を利用して、pHが下がると結合が切れて薬が放出されるように設計されたナノ粒子もあります。
副作用がゼロになるわけではありません。副作用を減らせる可能性がある、というのが現実的な表現です。
最新動向をわかりやすく――LNP、ADC、スマートドラッグ
DDSは、医療の最前線で進化を続けています。いくつかの最新動向を紹介します。
脂質ナノ粒子(LNP)とmRNAワクチンは、新型コロナウイルスのワクチンで広く知られるようになりました。mRNAは、細胞内でタンパク質を作る設計図となる物質ですが、非常に不安定で、すぐに分解されてしまいます。LNPがmRNAを包み込むことで、分解を防ぎ、細胞内へ効率よく届けることができます。
抗体薬物複合体(ADC)は、抗体に薬を結合させたものです。抗体が癌細胞表面の受容体を認識して結合し、薬を癌細胞内へ届けます。アクティブターゲティングの代表例で、乳がんや血液がんの治療に使われています。
スマートドラッグは、外部からの刺激に応答して薬を放出する設計です。pH、温度、酵素、光、磁場といったトリガーにより、放出のタイミングを制御します。たとえば、炎症部位は温度が高いため、温度に応答して薬を放出するナノ粒子が開発されています。
個別化医療との接点も注目されています。患者ごとに遺伝子や腫瘍の性質が異なるため、最適なDDSの設計も異なります。将来的には、患者ごとにカスタマイズされたDDSが使われる可能性があります。
脳内送達は、DDSの中でも特に難しい領域です。脳には血液脳関門(BBB)というバリアがあり、ほとんどの薬が通過できません。ナノ粒子の表面に特定の分子を付けることで、BBBを通過させる研究が進んでいます。
美容とDDSの関係――誤解を正す
美容の文脈でも、DDSという言葉が使われることがあります。しかし、医薬品のDDSと化粧品の成分デリバリーは、到達範囲も規制も別物です。この違いを理解しないと、誤解や過度な期待につながります。
化粧品の「浸透」は、角質層までを指します。角質層は、皮膚の最も外側にある死んだ細胞の層で、厚さは約10から20マイクロメートルです。化粧品は、この角質層に水分や油分、保湿成分を届けることで、肌の状態を整えます。
一方、医薬品のDDSは、血流に乗って全身を巡ったり、細胞内へ届いたりする設計です。到達範囲がまったく異なります。
化粧品の広告で「ナノカプセル」「リポソーム」「浸透技術」といった言葉が使われることがありますが、これらは角質層への浸透を助ける技術であり、細胞まで届くわけではありません。誤解を招く表現には注意が必要です。
美容医療では、ドラッグデリバリーの考え方が使われることがあります。代表的な方法を紹介します。
イオントフォレーシスは、微弱な電流を使って、イオン化した成分を皮膚の深部へ届ける方法です。ビタミンCなど、通常は浸透しにくい成分を届けることができます。
エレクトロポレーションは、高電圧のパルスを皮膚に当てることで、一時的に細胞膜に穴を開け、成分を導入する方法です。ダウンタイムがほぼなく、痛みも少ないとされています。
超音波導入は、超音波の振動を使って、成分を皮膚の深部へ届ける方法です。
マイクロニードルは、微細な針を皮膚に刺すことで、成分を真皮層まで届ける方法です。成長因子やペプチドなど、分子量が大きい成分も導入できます。
リポソーム化された成分を使った美容液も、化粧品として販売されています。ただし、これも角質層への浸透を助ける技術であり、細胞まで届くわけではありません。
美容とDDSの関係を整理すると、次のようになります。化粧品の成分デリバリーは、角質層までが基本です。美容医療では、皮膚バリアを超えて真皮層まで成分を届ける技術が使われますが、これも医薬品のDDSとは到達範囲が異なります。誇張された宣伝に惑わされず、到達範囲と目的を正しく理解することが大切です。
安全性と課題――免疫反応、蓄積性、コスト
DDSは、多くの期待を集める一方で、安全性や技術的な課題も残っています。
まず、免疫反応です。ナノ粒子やリポソームは、体にとって異物であるため、免疫系が反応することがあります。アレルギーや炎症が起きる可能性があります。生体適合性の高い材料を選ぶことで、リスクを減らす工夫がされていますが、完全にゼロにすることは難しいです。
次に、蓄積性です。ナノ粒子は、肝臓や脾臓に蓄積しやすい性質があります。長期的な安全性については、まだ十分なデータが揃っていない部分もあります。
材料の生体適合性も重要です。DDSに使われる材料は、無機・有機化合物、低分子・高分子化合物の多岐に渡ります。多糖類、ペプチド、タンパク質、核酸などの天然ポリマー、生分解性の合成高分子などが使われています。形態としては、可溶性ポリマー、可溶性(コロイド状)微粒子、不溶性微粒子、ゲル状のものなどがあります。
材料が体内で分解されるか、排泄されるかも重要です。分解されない材料が長期間体内に残ると、蓄積や毒性のリスクがあります。
製造の難しさも課題です。ナノ粒子やリポソームを安定して作るには、高度な技術が必要です。品質のばらつきを抑え、大量生産するための技術開発が進められています。
コストも無視できません。DDSを使った医薬品は、開発や製造にコストがかかるため、価格が高くなりがちです。患者の経済的負担を減らすためには、製造コストの削減や、保険適用の拡大が必要です。
規制の壁もあります。DDSを使った医薬品は、従来の医薬品とは異なる評価が必要です。安全性や有効性を証明するためのデータ収集に時間がかかります。
これらの課題を乗り越えるための研究が、世界中で進められています。
よくある誤解――DDSなら副作用が出ない、ナノなら何でも浸透する
DDSについて、よくある誤解を整理しておきます。
誤解1:DDSなら副作用が出ない
DDSは、副作用を減らせる可能性がある技術ですが、ゼロにするわけではありません。ナノ粒子やリポソームも、体にとっては異物であるため、免疫反応やアレルギーが起きることがあります。また、患部以外の組織にも一部は届くため、副作用は完全には避けられません。
誤解2:ナノなら何でも浸透する
ナノ粒子だからといって、すべてのバリアを通過できるわけではありません。血液脳関門(BBB)は、ほとんどのナノ粒子を通しません。皮膚バリアも、角質層を超えて真皮層や血管まで届くには、物理的な力(注射、マイクロニードルなど)や化学的な補助が必要です。
化粧品の「ナノカプセル」は、角質層への浸透を助ける技術であり、細胞まで届くわけではありません。
誤解3:化粧品のDDSで細胞まで届く
化粧品の「浸透」は、角質層までが基本です。細胞まで届くのは、医薬品や医療機器の範囲です。化粧品の広告で「細胞まで届く」「真皮まで浸透」といった表現を見かけたら、誇大広告の可能性があります。
DDSは、医療と美容の両方で重要な基盤技術ですが、万能ではありません。正しい理解が、賢い選択につながります。
まとめ――DDSは万能ではないが、医療と美容の両方で重要な基盤技術
DDSは、薬物を標的に届け、副作用を減らし、効果を高める可能性を持つ技術です。抗がん剤のナノ粒子、mRNAワクチンの脂質ナノ粒子(LNP)、経皮吸収型パッチ、点眼薬、吸入薬、美容医療での成分導入まで、幅広い応用が進んでいます。
ただし、DDSは万能ではありません。副作用をゼロにするわけではなく、すべてのバリアを通過できるわけでもありません。安全性や製造コスト、規制といった課題も残っています。
美容の文脈では、化粧品の「浸透」と医薬品のDDSの違いを理解することが大切です。化粧品は角質層まで、医薬品や医療機器は真皮層や血流まで。到達範囲を正しく把握することで、誤解や過度な期待を避けられます。
今後も、DDSは進化を続けるでしょう。個別化医療、スマートドラッグ、脳内送達、再生医療との融合。可能性は広がっていますが、現実的な理解と期待のバランスを保つことが重要です。
次に調べるべきキーワードとしては、「EPR効果 限界」「LNP mRNA 仕組み」「抗体薬物複合体 ADC 種類」「経皮吸収 メカニズム」「血液脳関門 DDS」といった言葉を検索すると、さらに深い理解につながります。
DDSという技術を知ることで、医療や美容の選択肢が広がります。賢い選択のために、正しい知識を持ち続けてください。
よくある質問
化粧品のDDSと医薬品のDDSは何が違うのか
化粧品のDDSは角質層までの浸透を助ける技術であり、医薬品のDDSは血流に乗って全身を巡ったり、細胞内へ届いたりする設計です。到達範囲と目的がまったく異なります。
DDSを使えば副作用は出ないのか
DDSは副作用を減らせる可能性がありますが、ゼロにするわけではありません。ナノ粒子やリポソームも体にとっては異物であり、免疫反応やアレルギーが起きることがあります。
ナノ粒子なら何でも浸透するのか
ナノ粒子だからといって、すべてのバリアを通過できるわけではありません。血液脳関門や皮膚バリアは、物理的・化学的な補助がなければ通過できません。
mRNAワクチンのLNPとは何か
脂質ナノ粒子(LNP)は、mRNAを包み込んで細胞内へ届けるカプセルです。mRNAは非常に不安定な分子ですが、LNPが保護することで分解を防ぎ、効率よく細胞に取り込まれます。
美容医療での成分導入は細胞まで届くのか
イオントフォレーシス、エレクトロポレーション、マイクロニードルなどは、真皮層まで成分を届ける技術ですが、血流に乗って全身を巡るわけではありません。局所的な効果を期待する範囲です。
文中に出てきた用語集
| 用語 | かんたん解説 |
|---|---|
| DDS(ドラッグデリバリーシステム) | 薬の成分を狙った場所に、届いてほしいタイミングで届けるための設計や仕組みの総称。薬を包むカプセルや粒子、投与経路、放出の仕方まで含めて考える技術。 |
| 薬物送達 | Drug Delivery の日本語表現。薬を体内の目的地へ運ぶこと。点眼、吸入、経皮パッチも広い意味で送達に含まれる。 |
| 体内動態 | 薬が体内でどう動くかを表す概念。吸収・分布・代謝・排泄の流れで整理される。 |
| ADME | Absorption(吸収)Distribution(分布)Metabolism(代謝)Excretion(排泄)の頭文字。体内動態の基本の枠組み。 |
| 吸収 | 薬が体内に取り込まれること。経口薬なら腸から血液へ入る工程を指す。吸収されにくいと効果が出にくい。 |
| 分布 | 血液に入った薬が体のどこへ行くか。脂溶性か水溶性か、血流量、タンパク結合などで偏りが出る。 |
| 代謝 | 薬が体内で別の物質に変化すること。主に肝臓の酵素で起きる。代謝で効き目が弱まる場合もあれば、逆に活性化する薬もある。 |
| 排泄 | 薬や代謝物が体外に出ること。主に腎臓から尿へ排泄される。胆汁や便で出る薬もある。 |
| 初回通過効果 | 飲み薬が腸から吸収された後、肝臓を通る段階で代謝され、効果が弱くなる現象。薬によって差が大きい。 |
| 血中濃度 | 血液中にある薬の量の指標。高すぎると副作用が出やすく、低すぎると効きにくい。効き目の持続とも関係する。 |
| 半減期 | 血中濃度が半分になるまでの時間。半減期が短いと効果が切れやすく、投与回数が増えることがある。 |
| クリアランス | 体が薬をどれだけ速く処理して体外へ出すかの能力を表す指標。肝臓と腎臓の働きが大きく関わる。 |
| 投与経路 | 薬を入れるルート。経口・注射・点滴・皮膚から・吸入・点眼など。投与経路が変わると体内動態も変わる。 |
| 点滴 | 血管内に薬液をゆっくり入れる方法。血中濃度を安定させやすいが、体への負担や管理も必要。 |
| 注射 | 皮下・筋肉・静脈などに薬を入れる方法。経口より速く効かせたい場面に使われる。 |
| 標的化(ターゲティング) | 薬を目的の細胞・組織へ集める発想。患部以外に行きにくくすると副作用を減らせる可能性がある。 |
| パッシブターゲティング | 粒子サイズや性質を使い、自然に患部へ集まりやすくする方法。代表がEPR効果を利用した腫瘍への集積。 |
| アクティブターゲティング | 抗体などの目印を使い、特定の細胞表面に結合させて選択的に届ける方法。狙いは明確だが設計が複雑になる。 |
| キャリア | 薬を運ぶ入れ物や運搬体の総称。リポソーム、高分子ミセル、ナノ粒子、ゲルなど。 |
| 放出制御 | 薬を一度に出さず、タイミングや速度を調整する設計。効果の持続や副作用軽減につながることがある。 |
| 徐放 | 薬をゆっくり放出すること。血中濃度の急な上下を抑えやすく、投与回数を減らせる場合がある。 |
| トリガー放出 | ある条件で薬が出る仕組み。pH、温度、酵素、光、磁場などを利用し、狙った場所で放出させる研究が進む。 |
| pH(水素イオン指数) | 酸性かアルカリ性かを示す尺度。数値が小さいほど酸性。炎症部位や腫瘍周辺は酸性に傾くことがあり、DDS設計に利用される。 |
| EPR効果 | 腫瘍血管は隙間が大きく、ナノ粒子が漏れ出て留まりやすい現象。動物では見えやすいが、人では腫瘍の種類や個人差で効き方が変わる。 |
| 血管透過性 | 血管から物質が外へ出やすい度合い。炎症や腫瘍では透過性が上がることがある。 |
| リンパ管 | 体内の水分や老廃物を回収する通り道。腫瘍ではリンパの流れが未熟な場合があり、滞留に関係することがある。 |
| ナノ粒子 | 直径がおおむね数十〜数百ナノメートルの微粒子。材料は脂質、高分子、金属など様々。サイズと表面設計で体内での動きが変わる。 |
| ナノメートル(nm) | 10億分の1メートル。髪の毛の太さは数万〜10万nm。DDSの粒子は数十nm規模が多い。 |
| リポソーム | 脂質二重膜でできた小さな袋。薬を包んで守り、血中での安定性や分布を変えられる。実用例が多い。 |
| 脂質二重膜 | 細胞膜と似た構造。脂質が二層に並んで膜を作る。生体になじみやすい性質がある。 |
| 高分子ミセル | 親水性と疎水性を持つ分子が集まってできる小さな球。内側に脂溶性薬物を入れやすい。 |
| 脂質ナノ粒子(LNP) | 脂質でできたナノカプセル。mRNAなど壊れやすい分子を保護し、細胞内に届けるために使われる。 |
| mRNA | タンパク質を作るための設計図に当たる分子。体内では分解されやすいので、LNPなどで保護して届ける必要がある。 |
| 細胞内送達 | 薬や遺伝子を細胞の中へ入れること。細胞膜を越える必要があり、送達技術の工夫が求められる。 |
| 抗体薬物複合体(ADC) | 抗体に薬を結合させた治療薬。抗体が目印となり標的細胞に結合して薬を運び込む。結合部(リンカー)の設計が重要。 |
| 抗体 | 免疫が作るタンパク質。特定の分子を見分けて結合する性質があり、ターゲティングに使われる。 |
| リガンド | 受容体に結合する分子の総称。標的細胞の目印としてキャリアに付けることがある。 |
| 受容体 | 細胞表面にあるアンテナのようなタンパク質。特定の分子が結合すると細胞内の反応が始まる。 |
| 血液脳関門(BBB) | 脳を守る強力なバリア。血液中の多くの物質が脳へ入りにくい。脳内送達はDDSの難関テーマ。 |
| 経皮吸収 | 皮膚から成分が体内へ入ること。パッチ製剤で使われる。化粧品の浸透とは意味が違う。 |
| 経皮吸収型パッチ | 皮膚に貼って薬をゆっくり入れる製剤。禁煙補助のニコチンパッチ、鎮痛薬パッチなどが代表。 |
| 皮膚バリア機能 | 角質層が外部刺激や水分蒸散を防ぐ働き。成分が入りにくい理由でもある。 |
| 角質層 | 皮膚の一番外側の層。死んだ角質細胞が重なりバリアを作る。化粧品の浸透は原則として角質層まで。 |
| 真皮層 | 角質層のさらに下にある層。コラーゲンやエラスチンが多く肌のハリに関係。ここへ成分を入れるのは医療的手段が絡む。 |
| 浸透 | 化粧品では角質層まで入る意味で使われることが多い。細胞まで届くという意味ではない点が誤解ポイント。 |
| イオントフォレーシス | 微弱電流でイオン化した成分の移動を助ける導入法。美容医療や一部の施術で使われる。 |
| エレクトロポレーション | 電気パルスで一時的に通り道を作り成分導入を助ける方法。施術として行われることが多い。 |
| 超音波導入 | 超音波の振動で肌表面の抵抗を一時的に下げ成分導入を助ける方法。機器の条件で差が出る。 |
| マイクロニードル | 微細な針で角質層を物理的に通りやすくする技術。化粧品タイプと医療機器タイプで規制と到達が異なる。 |
| 生体適合性 | 体に入れても炎症や拒絶が起きにくい性質。DDS材料選びで重要。 |
| 生分解性 | 体内で分解され最終的に排泄されやすい性質。蓄積リスクを下げるため重視される。 |
| 免疫反応 | 異物に対して体が反応すること。DDS粒子でも起こり得るため安全性評価が必要。 |
| アレルギー | 免疫反応が過剰に起きる状態。成分や材料によっては注意が必要。 |
| 酸化ストレス | 活性酸素などによる細胞への負担。美容や老化の文脈で語られることが多いが、医療のDDSとは目的が別の場合もある。 |
| 炎症 | 赤み・腫れ・痛みなどを伴う防御反応。炎症部位の環境変化がDDSのトリガー設計に利用されることがある。 |
| 再生医療 | 細胞や組織の修復・再生を目指す医療分野。DDSは成長因子や核酸などの送達と関わることがある。 |
| 成長因子 | 細胞の働きを調整するタンパク質。医療や研究で重要だが、化粧品では表現や到達範囲に注意が必要。 |
| ペプチド | アミノ酸が短くつながった分子。美容でも人気だが、大きさや性質で浸透性が変わる。 |
| コラーゲン/エラスチン | 真皮の構造を支えるタンパク質。肌のハリや弾力の説明でよく出る。 |