MLM業界の行政処分から見る販売員のコンプライアンス問題
MLM業界に携わる方なら、2022年10月14日に消費者庁が日本アムウェイ合同会社に対して下した業務停止命令のニュースに衝撃を受けたのではないでしょうか。世界100カ国以上で展開し、43年の営業実績を持つ業界最大手でさえ、末端の販売員による不適切な勧誘行為によって行政処分を受ける事態となりました。
この処分は、MLM業界全体に大きな問いを投げかけています。どれほど企業がコンプライアンス体制を整えても、なぜ現場レベルでの違反行為は止まらないのか。そして、販売員として活動する私たちは、何を学び、どう行動すべきなのか。
この記事では、日本アムウェイへの行政処分の詳細と、同様の処分を受けた他社の事例を比較しながら、MLM業界における構造的な課題と、販売員が守るべき法的ルールについて、業界内部の視点から解説していきます。
日本アムウェイに下された行政処分の全容
2022年10月13日、消費者庁は日本アムウェイ合同会社に対し、特定商取引法第39条第1項に基づく業務停止命令を発令しました。処分内容は、連鎖販売取引における勧誘、申込受付、契約締結の業務を2022年10月14日から2023年4月13日までの6ヶ月間停止するというものです。
連鎖販売業者【日本アムウェイ合同会社】に対する行政処分について
この処分は、健康食品や化粧品などの家庭用日用品を扱う連鎖販売業者としては異例の厳しさでした。なぜなら、アムウェイは1979年5月の設立以来、40年以上にわたって日本国内で事業を展開してきた実績があり、MLM業界においては最も知名度が高く、売上規模も最大級の企業だからです。
消費者庁の発表によれば、処分の理由は販売員による不適切な勧誘行為が繰り返し行われていたことにあります。具体的には、特定商取引法で義務付けられている事項の告知を怠ったり、事実と異なる説明を行ったりするなど、消費者保護の観点から看過できない違反が確認されたとのことです。
さらに、消費者庁は特定商取引法第38条第1項に基づき、日本アムウェイに対して再発防止策の策定とコンプライアンス体制の構築を指示しました。つまり、単なる一時的な処分ではなく、企業体質そのものの改善を求める内容となっています。
アムウェイ側の対応と今後の方針
日本アムウェイは処分を受けて即座に声明を発表しました。社長のピーター・ストライダム氏の名で公表された内容は、処分を真摯に受け止め、直ちに新規会員登録と勧誘活動を6ヶ月間停止するというものでした。
この対応で注目すべきは、単に行政の命令に従うだけでなく、全国の会員に対する再教育プログラムを実施すると明言した点です。会社としては、末端の販売員による違反行為であっても、それを防げなかった責任は企業側にあると認識していることがうかがえます。
したがって、アムウェイは今後、勧誘活動に対する監視体制の強化、コンプライアンスガイドラインの見直し、会員への定期的な研修実施など、多層的な再発防止策を講じていく方針を示しています。この姿勢は、業界全体にとっても一つの指針となるはずです。
アイテックインターナショナルの事例との比較
実は、日本アムウェイが処分を受ける約1年前の2021年8月25日、アイテックインターナショナルという企業も同様の行政処分を受けています。私自身がアイテックの加盟店として活動していることもあり、この2つの事例を比較することで、MLM業界が抱える構造的な問題が見えてきます。
アイテックもアムウェイと同じく、特定商取引法違反による業務停止命令を受けました。処分内容も酷似しており、新規勧誘や契約締結の停止、そして再発防止策の策定が命じられています。つまり、企業規模や知名度、営業年数に関わらず、MLM業界全体に共通する課題があることを示しているのです。
ここで重要なのは、アムウェイが43年、アイテックも一定の営業実績を持つ企業であるにもかかわらず、末端の販売員による不適切な勧誘行為を完全には防げなかったという事実です。一方で、両社ともに会社としてのコンプライアンスガイドラインは整備されていたはずです。
この矛盾が示唆しているのは、制度やルールがあっても、それを実際に守らせる仕組み、あるいは販売員一人ひとりのモラルと理解が追いついていない現実です。企業がどれほど立派なマニュアルを用意しても、現場で実践されなければ意味がありません。
なぜMLM業界で違反行為が繰り返されるのか
MLM業界における不適切な勧誘行為が後を絶たない背景には、いくつかの構造的な要因があります。まず、販売員の多くが個人事業主として活動しているため、企業による直接的な管理が難しいという点が挙げられます。
加えて、MLMのビジネスモデルは「人を紹介することで報酬を得る」という仕組み上、販売員には常に新規会員を獲得しようとするインセンティブが働きます。そのため、焦りや欲が先行し、法令遵守よりも成果を優先してしまうケースが生まれやすいのです。
さらに、MLM業界には「成功者の体験談」や「誰でも稼げる」といった甘い言葉が飛び交う文化があります。新規参加者はそうした話に魅了されて参入するものの、実際には思うような成果が出ず、焦燥感から強引な勧誘に走ってしまう悪循環が存在します。
また、販売員の多くが法律の専門知識を持たないまま活動を始めるという問題もあります。特定商取引法が何を禁じているのか、どのような説明が違反になるのか、正確に理解しないまま勧誘活動を行えば、無自覚のうちに法令違反を犯してしまうリスクは高まります。
特定商取引法が禁じる連鎖販売取引の違反行為
ここで、MLM業界の販売員が必ず知っておくべき特定商取引法の基本的なルールを整理しておきます。なぜなら、これらを理解せずに活動することは、自分自身が処分対象になるリスクを背負うことと同義だからです。
特定商取引法では、連鎖販売取引(いわゆるMLM)における勧誘行為について、厳格な規制を設けています。まず、勧誘に際しては、相手に対して「これは連鎖販売取引である」ことを明確に告げなければなりません。曖昧な表現で誤解を与えたり、ビジネスの本質を隠して接触したりすることは違反です。
次に、商品やサービスの内容、価格、契約条件などについて、事実と異なる説明をすることは禁止されています。「絶対に稼げる」「誰でも成功できる」といった断定的な表現も、実際には個人差があるにもかかわらず使用すれば、不実告知として問題視されます。
さらに、相手が契約を断っているにもかかわらず、しつこく勧誘を続ける行為(いわゆる迷惑勧誘)も違反です。相手の意思を尊重せず、強引に契約を迫るような行為は、たとえ成約に至らなくても法令違反となる可能性があります。
また、クーリングオフ制度についても正確に説明する義務があります。契約後20日間は無条件で解約できることを伝えず、あるいは解約を妨害するような言動をとれば、それも違反行為です。
企業のコンプライアンス体制と販売員の責任
アムウェイやアイテックのような大手企業であれば、通常、詳細なコンプライアンスガイドラインを用意し、販売員向けの研修も実施しています。しかし、それでもなお違反行為が発生するのは、最終的には販売員個人の判断とモラルに委ねられる部分が大きいからです。
企業側が「このような勧誘はしないでください」と明示していても、現場の販売員が「少しくらいなら大丈夫だろう」「他の人もやっているから」といった安易な考えで逸脱してしまえば、それが積み重なって企業全体の信用失墜につながります。
逆に言えば、販売員一人ひとりがルールを守り、誠実に活動すれば、企業の評判も守られ、自分自身も安心して長く活動を続けられるのです。したがって、コンプライアンスは企業だけの問題ではなく、販売員自身のキャリアと収入を守るための必須事項だと認識すべきです。
実際、行政処分を受けた企業の販売員は、一定期間活動ができなくなり、収入が途絶えるだけでなく、築いてきた信頼関係も損なわれるリスクを負います。そうした事態を避けるためにも、日頃から法令遵守を徹底することが何より重要です。
アイテック加盟店としての個人的な見解
私自身、アイテックインターナショナルの加盟店として活動しており、2021年の行政処分も経験しました。その際、会社からは真摯な謝罪と再発防止への取り組みが示され、私は企業としての誠実さを信頼して活動を継続してきました。
ただし、最近になってアイテックが新会社を設立し、そちらへの会員移行を促す動きが見られることには、正直なところ疑問を感じています。もし、過去の行政処分による評判悪化を避けるための企業名変更であるなら、それは本質的な問題解決ではありません。
本来、企業が取り組むべきは、ブランドを守りながら内部体制を改善し、販売員の教育を徹底して、同じ過ちを繰り返さないことです。新しい看板を掲げても、中身が変わらなければ、いずれ同じ問題が再発するでしょう。
したがって、私個人としては、アイテックという名前のまま、正々堂々と改善に取り組んでほしいと考えています。企業名を変えて過去をリセットするのではなく、過去の失敗を糧に成長する姿勢こそが、長期的な信頼構築につながるはずです。
MLM業界で誠実に活動するために必要なこと
今回のアムウェイの事例から学ぶべきは、どれほど大きく有名な企業であっても、現場レベルでのコンプライアンス違反は起こりうるということです。そして、その責任は最終的に企業全体が負うことになります。
だからこそ、販売員として活動する私たちには、自分自身が法令を理解し、守る責任があります。まず、特定商取引法の基本的な内容を学ぶことから始めましょう。消費者庁のウェブサイトには、わかりやすい解説資料が公開されています。
次に、所属する企業が提供するコンプライアンス研修には必ず参加し、最新の注意事項を常に把握しておくことです。法律は改正されることもあり、企業の方針も変わる可能性があります。情報をアップデートし続ける姿勢が欠かせません。
さらに、勧誘活動においては、相手の立場に立って考えることが重要です。自分が消費者だったら、どのような説明を受けたいか、どのような対応をされたら不快に感じるか、常に想像力を働かせながら行動しましょう。
また、成果を焦るあまり、無理な勧誘をしないことも大切です。短期的には契約が取れても、後々トラブルになれば、自分の評判を落とすだけでなく、企業全体にも迷惑をかけることになります。長期的な視点で、誠実な関係構築を心がけるべきです。
消費者保護の視点から見たMLMの課題
MLM業界が社会から厳しい目で見られる背景には、過去に多くの消費者トラブルが発生してきた歴史があります。高額な商品を購入させられたのに思うような収入が得られなかった、強引な勧誘で人間関係が壊れた、といった被害の声は後を絶ちません。
こうした問題を防ぐために、特定商取引法は年々厳格化されてきました。しかし、法律だけでは限界があり、最終的には業界全体の自浄作用と、販売員一人ひとりの意識改革が不可欠です。
消費者庁が今回アムウェイに厳しい処分を下したのは、業界最大手であるからこそ、見せしめとして他の企業や販売員に警鐘を鳴らす意図もあったと考えられます。つまり、「大手でも容赦しない」というメッセージです。
この処分を機に、MLM業界全体が自らの在り方を見直し、消費者保護を最優先する文化を築いていく必要があります。そうしなければ、業界そのものの信頼が失墜し、誠実に活動している販売員までもが不当な偏見にさらされることになります。
今後のMLM業界に求められる変革
アムウェイとアイテック、2社の行政処分事例が示しているのは、MLM業界における構造的な課題です。この課題を解決するには、企業側と販売員側の双方が変わらなければなりません。
まず、企業には、より実効性のある監視体制の構築が求められます。単にガイドラインを作るだけでなく、違反行為を早期に発見し、是正する仕組みを整える必要があります。たとえば、消費者からの苦情を真摯に受け止め、問題のある販売員には速やかに指導や契約解除を行うべきです。
また、販売員の教育にもっと力を入れるべきです。法律の知識だけでなく、倫理観やコミュニケーションスキルを高める研修を定期的に実施し、質の高い販売員を育成することが、長期的には企業の利益にもつながります。
一方、販売員側も、自分たちの活動が社会に与える影響を自覚し、プロフェッショナルとしての意識を持つべきです。MLMは正当なビジネスモデルですが、それを悪用すれば消費者に被害を与え、業界全体の評判を落とすことになります。
さらに、業界団体による自主規制の強化も必要でしょう。企業が個別に対応するだけでなく、業界全体で統一的な倫理基準を設け、それを遵守することで、社会からの信頼を回復していくべきです。
販売員として長く活動するための心構え
MLMで長期的に成功するためには、短期的な利益よりも信頼の構築を優先する姿勢が欠かせません。強引な勧誘で一時的に契約が取れても、その後クーリングオフされたり、悪評が広まったりすれば、長続きしません。
逆に、誠実に活動し、顧客や紹介者との信頼関係を大切にすれば、口コミで自然と輪が広がり、安定した収入につながります。信頼は一朝一夕には築けませんが、一度失えば取り戻すのは困難です。
また、法令遵守は単なる義務ではなく、自分自身を守るための手段でもあります。違反行為を犯せば、行政処分の対象になるだけでなく、民事訴訟を起こされるリスクもあります。法律を守ることは、リスク管理の基本なのです。
そして、常に学び続ける姿勢を持つことも重要です。商品知識、業界動向、法律の改正情報など、アップデートすべき情報は尽きません。学びを怠れば、時代遅れの方法で活動することになり、結果として成果も出にくくなります。
まとめ:行政処分から学ぶべき教訓
2022年10月に日本アムウェイが受けた業務停止命令は、MLM業界にとって大きな転換点となる出来事でした。業界最大手、43年の実績を持つ企業でさえ、末端の販売員による違反行為を防げなかったという事実は、業界全体に深刻な課題があることを示しています。
しかし、この処分を単なるネガティブな出来事として捉えるのではなく、業界全体が変わるきっかけとすべきです。企業はより実効性のあるコンプライアンス体制を構築し、販売員は法令遵守と誠実な活動を徹底する。そうした地道な努力の積み重ねが、MLM業界の信頼回復につながります。
私自身、アイテックの加盟店として、同様の処分を経験した立場から言えるのは、こうした事態を招かないためには、販売員一人ひとりの意識改革が不可欠だということです。会社のルールを守り、消費者の立場に立って考え、長期的な信頼関係を築く。そうした当たり前のことを、当たり前に実践する文化を作らなければなりません。
最後に、MLMで活動するすべての方に伝えたいのは、この業界は正しく運営すれば、多くの人に価値を提供できる可能性を持っているということです。しかし、一部の不適切な行為によって業界全体が批判されている現実も直視すべきです。私たち一人ひとりが誠実に行動することで、MLMの未来は変えられます。


